秋田地方裁判所大館支部 昭和53年(ワ)74号 判決 1981年2月12日
原告 林野庁共済組合
代理人 及川栄喜 真壁孝男 子吉三郎
被告 佐藤尚純
主文
一、被告は原告に対し、金五一万九二八〇円及び
金二〇万五四八〇円に対する昭和五一年八月二一日から、
金三万九一一〇円に対する昭和五一年九月二一日から、
金三万六八四〇円に対する昭和五一年一〇月二一日から、
金三万三六三〇円に対する昭和五一年一一月二一日から、
金五万〇一八〇円に対する昭和五一年一二月二一日から、
金五万二八〇〇円に対する昭和五二年一月二一日から、
金四万四八四〇円に対する昭和五二年二月二一日から、
金一万五四八〇円に対する昭和五二年三月二三日から、
金二万三一一〇円に対する昭和五二年四月二一日から、
金一万七八一〇円に対する昭和五二年五月二一日から、それぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二、訴訟費用は被告の負担とする。
三、この判決は仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一、請求の趣旨
1 主文一、二項同旨
2 仮執行宣言
二、請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一、請求原因
1 事故の発生
訴外佐藤直美は、次の交通事故によつて後記傷害を受けた。
(1) 発生日時 昭和五一年六月四日午後一〇時三〇分ごろ。
(2) 発生場所 秋田県北秋田郡阿仁町幸屋渡字上添寝六六の一附近の交差点
(3) 加害車 普通乗用自動車(秋五五ぬ六七〇二)
運転者 被告
(4) 被害車 普通乗用自動車(秋五五は二三〇〇)
運転者、被害者 佐藤直美(以下単に訴外人という)
(5) 事故の態様 被告は、加害車を所有者訴外菊地光男に無断で運転し、国鉄比立内駅方面から幸屋渡旧国道方面に向つて直進するに当り、同交差点には一時停止の道路標識が設置され、左右の見通しも困難であつたから、同交差点の直前かつ左右の安全を確認できる地点で一時停止を行い、左右道路の安全を確認する等、事故発生を未然に防止すべき注意義務があるのにもかかわらずこれを怠り、漫然と時速一〇キロメートルで進行した過失により、自車の右方優先道路から進行してきた訴外人の運転する普通乗用車に衝突させた。
(6) 傷害の内容 頸部挫傷、両膝蓋部挫創等
2 被告の責任
被告は、本件事故当時加害車の運転に従事したものであり、直接の加害者として民法七〇九条により被害者の受けた損害の賠償義務を負うものである。
3 医療費損害の発生と給付
(1) 右事故の結果、訴外人は前記傷害治療のため昭和五一年六月五日から同五二年三月三一日まで公立米内沢総合病院外二病院に入院及び通院し、その間の療養の給付額(医療費)は、金五一万九二八〇円である。
(2) 右医療費金五一万九二八〇円は、訴外人が当時林野庁共済組合員であるため、右公立米内沢総合病院外二病院から秋田県社会保険診療報酬支払基金を通じて原告に請求があつたので、原告は国家公務員共済組合法五四条に定めるところにより同基金に対して左記のとおり支払つた。
記
診療月別
支払金額
支払年月日
昭和五一年六月
二〇万五四八〇円
昭和五一年八月二〇日
〃 七月
三万九一一〇円
〃 九月二〇日
〃 八月
三万六八四〇円
〃 一〇月二〇日
〃 九月
三万三六三〇円
〃 一一月二〇日
〃 一〇月
五万〇一八〇円
〃 一二年二〇日
〃 一一月
五万二八〇〇円
昭和五二年一月二〇日
〃 一二月
四万四八四〇円
〃 二月二一日
昭和五二年一月
一万五四八〇円
〃 三月二二日
〃 二月
二万三一一〇円
〃 四月二〇日
〃 三月
一万七八一〇円
〃 五月二〇日
合計
五一万九二八〇円
4 損害賠償代位請求権の取得
原告は、訴外人の本件事故による前記医療費の給付事由が第三者である被告の行為によつて生じたものであるため、国家公務員共済組合法四八条一項に基づき右給付額を限度として、訴外人が被告に対して有する損害賠償請求権を取得した。
5 よつて原告は、被告に対して金五一万九二八〇円と、請求の趣旨記載の各金額に対する請求の趣旨記載の各給付した日の翌日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二、請求原因に対する認否
1 請求原因1は、(5)を除き、認める。(5)のうち、被告が一時停止義務を怠つた点は否認し、その余は認める。
2 同2は争う。
3 同3(1)のうち訴外人の入・通院期間と療養の給付額は不知、その余は認める。(2)のうち原告の支払年月日と支払金額は不知、その余は認める。
4 同4は認める。
5 同5は争う。
三、被告の主張
被告は、本件交差点の一時停止線のやや手前で一旦停止し、左右の交差道路上に車両等のいないことを確認したうえ発進し、交差点中央を過ぎたところ、突如、訴外人の車両が交差道路を猛速度で進行してきてそのまま被告車の右後側部に衝突し、その結果、被告車は左斜前方に強烈に押し出されて電柱に激突した。右事故により被告自身も重傷を負い、被告車の右後側部と左前面を大破した。訴外人は、他に通行車両がないことに気を許して制限速度をはるかに超過する高速で進行し、かつすでに交差点内に進入して車体が道路中央を越えている被告車を発見することなく、又は発見後もなんら制動、減速等の措置をとることなく車両を運転したものである。
右のとおりであつて、被告には運転上の過失はなく、事故発生はひとえに訴外人の前方不注視と速度超過の過失によるものである。
四、抗弁
1 過失相殺
仮にそうでないとしても事故発生については訴外人の過失も寄与しているのであるから、賠償額算定につき、これを斟酌すべきである。右過失の割合は、被告が六・三割、訴外人が三・七割と見るべきである。
2 和解成立
訴外人と被告との間には、昭和五四年三月三〇日、被告が訴外人に対して和解金七五万円を払うことで和解が成立しているから、原告の本訴請求債権も消滅したものであつて、本訴請求は失当である。
3 相殺
被告は訴外人の前記前方不注視、速度超過の過失によつて次の損害を受けたので、昭和五三年九月一二日の本件口頭弁論期日において、被告が訴外人に対して有する右損害賠償請求債権をもつて、原告の本訴債権とその対当額において相殺する旨の意思表示をした。
(1) 被告車の修理代金四八万円
被告は、訴外菊地光男に対して修理代金として右金員を支払つた。
(2) 被告の医療費八万八四四九円
被告は、右金員を森吉町外四ヵ町村病院に支払つた。
(3) 入・通院慰藉料四〇万円
被告は昭和五一年七月二六日まで右病院に入院し、その後も通院治療したので、その慰藉料は右金額が相当である。
(4) 休業損害四〇万八〇〇〇円
被告は本件事故により六八日間休業し、その間、当時勤務していた訴外松季工務店から一日五〇〇〇円の割合による給与の支払を受けることができなかつた。
五、被告の主張と抗弁に対する原告の認否と反論
1 被告の主張は否認する。
訴外人は、時速三〇ないし四〇キロメートルの速度で本件交差点に差しかかり、交差点の約一五・三メートル手前で、進行方向左側の交差点の一時停止線の手前を進行中の加害車を発見したが、訴外人の通行する国道一〇五号線は優先道路であるうえ、被告の通行していた道路には一時停止の標識があり、一時停止線も表示されていたので、当然加害車は一時停止するものと予測しながらも直ちにアクセル操作をし、速度を落として進行したところ、加害車は停止線の直前でも交差点の直前でもなんら一時停止することなく、そのまま交差点内に進入してきたので、訴外人は、即座に右方向へハンドル操作をするとともに急ブレーキをかけたのであるが、被告はなんら危険回避の措置を講じることなく直進した。本件事故は、被告の一時不停止、左右不確認の過失によるもので、訴外人には運転上の過失はないから、被告の主張は理由がない。
2 抗弁1は否認する。
3 同2のうち、被告主張のとおりの和解が成立したことは認めるが、右和解は、原告の本訴請求にかかる医療費五一万九二八〇円を除外したものであることは和解条項から明らかであるから、右和解の効力は原告の請求債権に及ばない。
4 同3について、被告の受けた損害は知らないが、仮に本件事故により被告に損害があつたとしても、それは被告の過失によるものであつて、なんら過失のない訴外人がその損害を賠償する理由はない。
第三証拠 <略>
理由
一、事故の態様と責任の帰属
請求原因1(1)ないし(4)の事実は当事者間に争いがない。
そこで本件事故態様について検討する。
<証拠略>を合わせると、次の事実が認められる。
(1) 本件事故現場はほぼ別紙交通事故現場見取図(以下見取図という)のとおりである。本件交差点は、交通整理の行われていない交差点であつて、路面はアスフアルト舗装され、平たんで、本件事故当時乾燥していた。本件交差点の見通し状況は、訴外人が進行していた国道一〇五号線(南北に走る道路、以下南北道路という)は、前方は良いが、右交差点に入る左角(北東角)に人家があつて左方への見通しは悪く、右方はやや悪い。また被告が進行していた東西に走る道路(以下東西道路という)は、右交差点の東側に向つて下り勾配となつて、前方左右とも見通し悪く、付近は最高速度を時速四〇キロメートルに制限されている。
(2) 南北道路は、道路交通法三六条にいういわゆる優先道路で、交通量は普通であるが、東西道路は、本件交差点の約四〇メートル東に国鉄阿仁合線比立内駅が位置し、国鉄利用者の乗降以外には交通量閑散である。右東西道路は巾員が一一ないし一二メートル位あるものの、右道路上の本件交差点の東西の各端に一時停止線がひかれ、また右交差点の南東角と北西角に一時停止の道路標識が設置されている。
(3) 被告は、事故当時、建築現場での勤務を終え、帰宅途中、訴外菊地とともに同人運転の自動車(加害車)で国鉄比立内駅に立ち寄り、菊地が同駅前の電話ボツクスで架電している際に、同人の了解なく無断で加害車を借用し、運転練習のため軽くドライブするつもりで運転を開始した(見取図<1>地点、以下単に<1>地点等という)。なお、被告は、本件事故の約一〇ヶ月前に運転免許を取得したものの、四ヵ月位運転したのみで、運転操作に慣れていなかつたうえ、自動車を保有していなかつた。
(4) そして被告は、右<1>地点から時速約一〇キロメートルの速度で進行し、東西道路を西方に向つて直進すべく本件交差点に差しかかつたが、運転操作が未熟で運転操作に集中する余り注意力散漫となり、一時停止することも、かつ左右の安全を確認することもなく、漫然そのままの状態で本件交差点に進入した。被告は、<3>地点付近で自車右方から時速約二〇ないし三〇キロメートルの速度で直進してくる訴外人運転の自動車(被害車)の前照灯のライトの光を間近に認めたが(そのとき被害車の位置は<C>地点付近であつた)、加速すれば被害車より先に交差点を通過し終えるものと思つて加速した。
(5) 訴外人は、南北道路を時速約三〇ないし四〇キロメートルの速度で直進して、本件交差点の約二八・四メートルの地点に差しかかつた際、交差点付近に加害車の前照灯のライトの光を発見し、さらに<B>地点まで進行したとき、交差点の東端<2>付近にいる加害車を、約一五・三〇メートル前方に発見したので、直ちに自車を時速約二〇ないし三〇キロメートルに減速したところ、加害車がそのまま交差点に進入してきたため急制動の措置を講じ、右方へハンドル操作をした(そのとき加害車、被害車の位置はそれぞれ<3>地点付近と<C>地点付近であつた。)。
(6) しかし加害車と被害車は、交差点のほぼ中央<X>地点付近で、加害車の右側ドア、前部フエンダー付近と被害車の前部とが衝突し、加害車は<5>地点付近で、被害車は<E>地点付近でそれぞれ停止した。事故現場には見取図表示のとおり被害車のスリツプ痕があつたが、加害車のスリツプ痕はなかつた。
以上の事実が認められ、右認定に反する<証拠略>は、供述内容の変遷、供述相互間の矛盾、そごに照らし、自己の責任を免れるための弁解と解する外なく、前掲各証拠と対比しても到底採用することができない。(被告は、本件交差点の一時停止線のやや手前で一旦停止し、左右の交通の安全を確認した旨主張し、<証拠略>には一部これに添う供述、記載部分が存在するが、右尋問結果では、一時停止線を約三〇センチメートル通過した地点で一時停止し、右方を確認したが被害車を発見できなかつたと述べ、他方、<証拠略>においては、一時停止線の一尺位手前で停止したものの、右方の安全確認をしなかつたと述べ、右供述相互間の矛盾、そご著しく、かつ<証拠略>では、一時停止や右方の安全確認についてはその懈怠を認めていることや、右一時停止した地点で左右の交通の安全を確認したとすれば、<証拠略>で認められる加害車から右方への見通し状況に照らし、被害車の存在を認識しえたはずであること等を考えれば、前記供述、記載部分はたやすく措信することはできない。さらに訴外人が制限速度を超過して進行したとの事実は本件各証拠によるも認めることができず、この点について、<証拠略>中の、被告が<3>地点付近で約五〇メートル右方に被害車のライトの光を発見したとの部分は、右<3>地点からわずか三・七メートル程離れた地点で衝突していることや衝突後の双方の車の位置や破損状況に照らし不合理と言わざるをえず、被告の主張は理由がない。)
右認定事実によると、加害車を運転していた被告は、本件事故につき自動車運転手として遵守すべき、左右の見通しの悪い交差点に進入する際の一時停止義務と左右の交通の安全を確認すべき注意義務を怠つた過失を犯したものであるから、民法七〇九条により、本件事故による訴外人の損害を賠償する責任を負わなくてはならない。
二、過失相殺
ところで、前記認定事実によると、被害者である訴外人においては、左右の見通しの悪い交差点を通過するのであり、しかも衝突地点の約二八・四メートル手前で左方道路からライトの光がさしているのを認め、かつそこが交差点になつていることも知つていたのであるから徐行して加害車の動静を注視し、安全を確認して進行すべき注意義務があるのに、自車の速度を時速一〇キロメートル程度減速したのみで徐行せず、その安全を確認しないままで交差点に進入した過失を犯していることと、右過失が本件事故発生の一因をなしていることが認められる。
しかしながら、過失相殺の法理は結局損害を加害者被害者間に公平に分担させることを目的とするのであるから、その適用に当り、双方の運転する車両が道路交通に及ぼす抽象的危険性の差異や双方の過失の程度、内容を考慮するのを相当とする。しかるときは、優先道路を通行する訴外人は、不十分ながらも減速し、被害車の動静を確認しているのであるから、その過失は比較的軽微であるのに比べ、被告は、友人の車両を無断で借用し、運転操作が未熟な状態で、優先道路と交差する、しかも見通しの悪い本件交差点に差しかかり、一時停止も左右の交通の安全の確認もしないまま、漫然右交差点に進入したものであつて、その過失は重大で、その車両の危険性は大であると言わなければならない。このような事情を考え合わせると、本件の場合過失相殺を行わないのを相当と考える。
三、損害
訴外人が本件事故のため請求原因1(6)記載どおりの傷害を受けたことは当事者間に争いがなく、次に<証拠略>によると、請求原因3(1)(2)記載の各事実を認めることができる。
そして請求原因4記載の事実は被告の認めるところであるから、被告は、訴外人の受けた損害の医療費五一万九二八〇円について、国家公務員共済組合法四八条一項に基づき訴外人が被告に対して有する右損害賠償請求権を取得した原告に対して、不法行為者として賠償する責任があると言わなければならない。
四、抗弁
1 次に抗弁2について検討する。
<証拠略>によると、訴外人は被告に対し、本件事故による損害賠償請求訴訟を山形地方裁判所新庄支部に提起し(同庁昭和五三年(ワ)第四号)、昭和五四年三月三〇日、同裁判所で、被告が訴外人に対し金七五万円を支払うこと等を内容とする和解が成立したこと、右訴訟において訴外人は被告に対して金一一八万三一二〇円と内金に対する遅延損害金の支払を求めたが、第七回口頭弁論期日において、被告において右七五万円の支払義務を認める代わりに、訴外人においてその余の請求を放棄することで和解が成立したこと、右請求金額の内訳は、医療費二〇万三五〇〇円、慰藉料一二〇万円、自動車修理代金三二万円の外、入院諸雑費、交通費、弁護士費用の合計二一八万三一二〇円から訴外人の受領した自賠責保険金一〇〇万円を控除した金額であること、そして右医療費は、訴外人の負担する入、通院費合計七二万二七八〇円から、原告が負担するため原告から被告に請求する金額五一万九二八〇円(これは、本訴請求額である)を控除した金額であること、以上の事実を認めることができる。
ところで、国家公務員共済組合法による各種保険給付金の受給権者が、第三者に対して有する自己の損害賠償請求権を放棄したような場合は、右給付によつて補填されない賠償請求権のみを放棄する趣旨の明示ないし黙示の契約の存在を認めうるような特段の事実の主張、立証のない限り、国家公務員共済組合の保険給付と同時に法律上当然に同組合に移転すべき損害賠償請求権についてまで放棄したものと解され、同組合はその後保険給付をしても、その給付額につき同法四八条一項により損害賠償請求権を取得しえないと考えられる。これを本件について見るに、前記認定事実によると、訴外人は右訴訟において本件保険給付額についてはいずれも明示的に右請求の対象から除外し、右給付額を除く損害賠償請求権についてのみ和解により放棄したことが認められる。それだけでなく、前記認定した原告の本件給付額は、いずれもその支給の時期が本件和解成立の昭和五四年三月三〇日以前に該当するのであるから、訴外人の被告に対する右損害賠償請求権はすでに原告に帰属し、訴外人はこれを放棄できないことは明らかである。
そうすると、この点に関する被告の抗弁は結局理由がないことに帰する。
2 被告は、原告の本訴請求に対し、訴外人の過失によつて被告の受けた抗弁3(1)ないし(4)記載の損害の賠償請求権を自働債権として相殺の抗弁を主張するので、この点について検討する。
本来不法行為による損害賠償債務を負担している者は、被害者に対する不法行為による損害賠償請求権を有している場合であつても、被害者に対しその債権をもつて対当額につき相殺により右債務を免れることは、民法五〇九条の趣旨に反し許されないものと解するのが相当である。そしてこの理は、双方の過失に起因する同一交通事故によつて生じた損害に基づく損害賠償債権相互間においても妥当し、これを別異に解する理由は見出し難い。従つて被告の抗弁は主張自体失当と言わなければならない。
なお、付言するに、前記認定のとおり、訴外人には、本件事故に関し、一応徐行と安全確認義務違反の過失が認められるが、これを過失相殺における過失として斟酌することは相当でなく、従つて訴外人には、右過失と比してより重い程度の不注意が要求される不法行為成立の要件としての過失も存在しないという外はなく、そうすると、その余の点について判断するまでもなく、訴外人は本件事故によつて被告の受けた損害を賠償する義務はないと言わなければならない。
よつて被告の抗弁は採用の限りではない。
五、以上の事実によれば、原告の本訴請求はすべて理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 古川順一)
別紙 交通事故現場見取図 <略>